「俺…ちさの事、泣かしてばっかだな…」
頭を掻きながら、不本意な自分を責めるかのように、響は言った。
響が、辛く、悲しい気持ちを押し殺しているのが分かった。僕が響なら…。ちさに『さよなら』なんて。吐き出したくもない、その言葉を、響は身を切るような想いで口にした事、痛いほど分かった。そして
「ちさ、笑って?」
と言った。
ちさは、子供のように、溢れ出る涙を拭う事もしないで、ただ、声を殺して泣いていた。響の言葉に、小さく首を振った。
「……泣くな」
響の表情が、苦痛に歪む。
そして響は、ちさに歩み寄った。
涙が伝う、ちさの頬を、両手で包み、額と額をぶつけた。
「気持ちを計る事は出来ないけど、俺も、トーマと同じくらい、お前の事を大切に想ってる。………幸せになってくれ…!」
ちさの目からは、どんどん涙が溢れてくる。
「頼む。笑って…」
そして響は、唇に触れるか触れないかの、ちさの口角辺りの頬に。
キスをした。