恋のパジャマのズボンの前が見事に隆起していたのだ。
恋は、悪戯を見つかった子供のようにシュンとして、耳まで真っ赤に染めている。
なんて純情なんだろう。
私はコウに微笑みかけ、隣の患者に聞こえないように、耳元で囁いた。
「ごめんなさいね。知らなかったの。でも、恥ずかしがることなんてないのよ。孝一君は若いんだから、それで当たり前なのよ」
するとコウは、大きな瞳を潤ませて言った。
「ごめんなさい、看護婦さん。いつも一生懸命お世話してくれてるのに、ボクったらこんなにしちゃって…」
泣きべそをかきながら詫びる姿を見て、私はコウがいっぺんに好きになった。この子はまだ高校生だって言うのに、こうして人の気持ちまでちゃんと斟酌できるんだ。私も子供を産んで、こんな優しい男の子に育てたかった…。
十年前の出来事が頭を過ぎり、私は思わず涙ぐんでしまった。
「よしむらさん?」
コウが心配そうな顔をして、私に名前で呼びかけた。
「ホントに、ごめんなさい。謝るから、もう泣かないで…」
私はコウの優しさに、とうとう涙をこぼしてしまった。
どうしよう、と言いながらオロオロするコウを制して、私は何とか微笑みを取り戻して、言った。
「大丈夫よ。ごめんなさい。孝一君のせいじゃないの。私ね、子供が産めなかったから…。孝一君みたいに素直で優しい男の子がいたらよかったのにって思ったら、つい涙が出てきちゃって…。ごめんね。びっくりさせて」
コウは、ベッドの柵を握っていた私の手にそっと触れて、言った。
「そうだったの…。子供、産めなかったんだ。ねえ、吉村さん。僕にはお母さんがいないんだ。小学生の時に突然家から出ていっちゃって…。だから、吉村さんが毎日御飯を運んでくれたり、ウンチを取ってくれたりするとね、ああ、お母さんがいたらこんなふうに僕の面倒を見てくれるんだなって考えてた。吉村さんみたいな人がお母さんだったらよかったのにって、いつも思ってた」
私は思わず、コウの頭をに抱き寄せていた。何故入院患者のコウに、そんな事をしたのか、わからない。決して同情や憐憫ではない。今までもっと気の毒な患者はいくらだっていた。
私は、コウを抱きしめてあげたかった。そうすることで、自分自身を慰撫していたのかもしれない。