コウの言葉は、私を苛立たせた。理由は自分でもわからないが、無性に腹が立った。ろくに恋愛経験もない高校生が、生意気言わないでよ。男と女のことなんて、何もわからないくせに。
自分が待合室にいることも、コウが患者であることも忘れて、私は叫んでいた。
「いい加減な慰め、言わないでよ!おっぱいのない、ムカデみたいな傷痕のある女なんて、どうして愛せるって言うのよ!見たこともないくせに!」
私はコウの頬を思い切り平手で打って立ち上がった。
白衣のボタンを引きちぎりって前をはだけ、ブラジャーを押し上げた。左のカップに入れていたダミーの乳房が床に転がった。
「さあ、見なさいよ。私のおっぱい。こんなおっぱいの女を、あなたは抱けるって言うの?変な同情はやめてよ!」
私が言うと、コウが勢いよく立ち上がった。
きっと殴り返される…。
そう感じて、私は無意識に目を閉じた。
次の瞬間、私は頬を打たれる痛みの代わりに、唇に柔らかで温かいものが触れるのを感じた。私は驚いて目を開いた。
コウの顔が目の前にあった。温かく柔らかいのはコウの唇。
私を見つめるコウの目からは、あとからあとから涙が溢れ出す。主人が私に、生きていてくれと頼んだ、あの時の目だ。
唇を重ねたまま、コウの左腕が私の背を抱き寄せる。右の手が、少しの躊躇いもなく私の左胸に触れた。私はピクリと身体を震わせた。
コウの指先が、手術痕をなぞっていく。私の身体は金縛りにあったように、それから逃れられない。
なんて温かくて優しい指先なんだろう。たとえば、母親が我が子の頬を撫でる時のような、慈愛に満ちた指先に、私の心が波立つ。
「…コウ…」
私は唇を重ねられたまま呟いた。
コウの唇が少し離れる。私の全てを包み込んでしまうような、愛しさと哀しみね入り混じった瞳で、じっと見つめる。
「コウ…、わたし…」
十七歳の少年ね腕の中で、四十五歳の私が、翼の折れた小鳥みたいに、小刻みに震えている。
コウは、目だけで頷くと私の前に膝を着いた。コウの顔は、小柄なわたしの胸の前で止まる。唇が左胸の傷痕に触れ、なぞっていく。指先よりもずっと温かで柔らかい。
「コウ…」
心の中でいろんな感情が渦巻くけれど、どれも言葉にならない。