この前よりもゆったりとした動作で、傷痕に沿って指先を滑らせる。
唇で愛撫していく。
なんて気持ちがいいんだろう…。
コウの唇が、左胸の悲しい突起を捉えた。
全身に電流が走り、私は小さな喘ぎを漏らしてしまう。
「ああっ!コウ……。どうしてこんなに……」
柔らかな乳房の肉を削ぎ落とされ、肋骨を覆っているだけの皮膚や、飾りのような乳首が、どうしてこんなに感じるのだろう。
コウが左胸に耳を押し当てる。
目を閉じて、安息の表情で言う。
「さゆりさん。右側のおっぱいって、すごく柔らかくて、綺麗です。左のおっぱいはペッタンコだけど、さゆりさんの血や肉の代わりに、心がぎっしりとつまってる。
悲しみも苦しみも、寂しさや痛みも…。それに喜びだって、きっとたくさんつまってる。
こうしてると、その音が聞こえてくる。
僕は、さゆりさんのぺったんこの左胸。大好きだよ。
柔らかいおっぱいは、女性だったら誰だって持ってる。でも十年間も、いろんな痛みや辛さに耐えてきた左の胸は、さゆりさんだけしか持ってないもの。
生意気かも知れないけど、すごくステキだと思う」
「コウ…」
私の瞳から、新しい滴が零れだした。
コウが立ち上がり、目尻に溜まった涙を、優しく吸い取ってくれる。
そんなコウが好きだ。
どうしようもないくらい、大好きだ。
コウの胸に、顔を埋める。
がっしりとした腕が、私を抱き寄せる。
身体が密着すると、お腹の辺りにコウの欲望が触れた。
コウが、私を欲しがっている?
「欲しいの?」
私は背伸びをして、コウの耳元で囁いた。
コウは、はにかみを浮かべて頷いた。
「ここで…、する?」
私は訊ねた。
コウが望むなら、何だってしてあげる。
理性は完全に、崩壊していた。
しかし、コウは首を横に振った。
「したい…。今すぐに、さゆりさんが欲しいです。
でも、今夜は我慢します。ここは、さゆりさんの大切な職場でしょ。だから、退院してから二人に相応しい場所で、確かめ合いたいんです。それでいいですよね?」
「コウ…。ありがとう。私のこと、そんなに大切に考えてくれるんだね。こんなバツイチの…」
私の言葉を、コウは柔らかな唇で封じ込めた。
そして、再び抱き寄せる。
息ができないくらい強く…。