どこかで僕は期待していたのかもしれない。
もしかしたら…
そう思うだけで,胸が痛い程高鳴り,君を真直ぐには見られなくなる。
「聞いてるの〜?」
ストローでグラスの中の氷をグルグル回しながら,君が頬を膨ます。
「き…聞いてるよ。」
顔が赤くなっていくのが分かる。僕は窓の外を見ながら一気にアイスコーヒーを飲んだ。
「じゃあ私の今言った事言える?」
君は悪戯する子供の様に少しはしゃいで,僕を覗き込む。
「え…え〜っと」
更に顔が赤くなる。
「ほらねぇ〜。だから男の人はさぁ…」
僕はちゃんと聞いていたよ。
いつだって,君の言葉は一語一句聞き逃さず聞いている。
君は僕の事をただ単に,昼休みの茶飲み友達だと思ってるかもしれない。
けど…僕は違うんだ。
だから,君の好きな人の話しや恋の悩みなんかは僕にはしないで欲しい。
もしかしたら…
なんて思ってしまった僕がバカみたいじゃないか。
「どうしたの?」
君が俯いた僕にそう聞くから,悔しい気持ちと恥かしい気持ちと色んな感情が入交じって言ってしまいそうになる。
「僕は君のそんな話し聞きたくないんだ」って。
顔を上げて,君を初めて真直ぐ見た。
君は何故か顔を赤らめていて,少し潤んだ瞳で僕を見ていた。
「僕はさぁ…」
そこまで言った時,君が僕の言葉を遮った。
「私の好きな人はね…」
「あなたなの。」
君は更に顔を赤らめた。
「僕も…。」
二人の熱で,グラスの中の氷が音を立てて溶けていく。
終