コウとの待ち合わせは、いつも駅前のマクドナルド。
学生時代にはよく利用したマクドナルドも、この歳になるとちょっと気恥ずかしい。
めずらしく時間に遅れて来そうなコウを待ちながら、私は最初のデートを思い出した。
昔と変わらず、学生達で賑わうマクドナルドの喧騒は、私にはあまり居心地の良いものではなかった。
次の待ち合わせは、ちょっと小洒落たレストランにしようと言うと、コウはとんでもない、と首を振った。
「ダメだよ。そんな高い店。さゆりさんとのデート代がなくなっちゃうよ」
私は、大した考えもなしに、笑いながら答えた。
「あら、コウはそんなこと気にしなくていいのよ。それくらい私が出してあげるから」
それを聞いて、コウの表情がたちまち曇った。
「さゆりさん。僕がそんな気持ちで、さゆりさんと付き合ってるって思ってたんですか?」
「そうじゃないわ。でも、コウはまだ高校生で、私は社会人なんだから、それくらいは任せてよ。少しくらい、コウにお礼だってしたいし…」
コウが悲しそうに答える。
「高校生だからとか、お礼だとか、どうしてそんな事を言うんですか。僕はさゆりさんが好きだから、デートしてる。お礼を言われる理由なんてないんです。そのために、バイトだってやってるし…。そりゃ、全部奢るほど、お金持ちじゃないけど…」
私は、精一杯背伸びをしているコウが、愛しくて仕方がない。
何も言わず、花を持たせてやりたいと思う。
でも、私と付き合うことで、将来の目標を失ってほしくはなかった。
僅かばかりのバイト代の為に、貴重な時間を費やしてほしくなかった。
疎ましく思われるのを承知で、私はコウに言った。
「コウの気持ちはすごく嬉しい。でも、コウの将来にとって、今は大切な時期でしょ。だから、せめてあなたが大学生になるまでは、力にならせて欲しいの。私ね、コウが思ってる以上に、あなたを愛してる。だから絶対に、負担になりたくない。お礼なんて言い方したのが悪かったけど、コウが考えててるような卑屈な意味で言ったんじゃないの」
諭すように言いながら、私はコウの言った事が的を射ていると気付く。胸がチクリと痛む。
私の中に、『こんなおばさんに付き合ってくれてる』というコンプレックスがあるから、あんな言い方をしてしまったのだ。