「おかしいです。スッゴクおかしいですよ、婦長。でも、恋なんておかしなものじゃないんですか?それに、孝一君だって、婦長のことが好きなんでしょう?」
全く変な言い方だが、涼子の言葉には、妙に納得
させられてしまう。
「好きだって、言ってくれてる…」
私が遠慮がちにいうと、涼子は大袈裟に頷いて、納得した。
「でしょうね。だって入院してた時から、婦長のことばっかり気にしてたんですよ。
看護学校を出たての若くて可愛いナースとか、私みたいにセクシーなナースには目もくれないっていうのに。
あたしがね、病室に行くたびに聞いて来るんです。
婦長さんは、何て言う名前?何歳?結婚してるの?子供はいるの?
まあ、あたしが婦長の一番弟子だから、でしょうけどね。
あんましつこく聞くから、吉村婦長のこと好きなんでしょう、って聞いたら、真っ赤になって俯いちゃった。あたし、おかしくって…」
「そうなの…。知らなかった」
「当然ですよ。病室の他の患者さんにも、あたしが箝口令をしいてたんだから。
それに、退院する二、三日前だったかな。
あたしが朝の検温に行くと、カーテンが閉まってて…。
若い男の子だし、中でエッチなことでもしてたら可哀相だから、こっそり様子を伺ったんです。
そしたら、ベッドの上に座って、あの子泣いてたんです。真っ赤に眼を腫らして。
あたしびっくりして、理由を聞いたら、吉村婦長がかわいそうで、涙が止まらないって…。
どうして吉村さんが、苦しい事全部、一人で引き受けなきゃならないんだろう、って。
あたし、何て慰めたらいいのかわからなかった」
「………」
「その時ね、あたし思ったんです。孝一君って、もしかしたら婦長のところに遣わされた天使なんじゃないかって…」
涙もろい涼子が、収拾がつかなくなる前に、私は話を切り上げ、病棟へと向かった。
ありがとう、コウ。
でも私、そんなに不幸じゃないよ。
こうしてコウと出逢えたから…。
でも、ひとつだけ神様に文句を言いたいの…
あなたには、左胸にもおっぱいがある私を抱いて欲しかった……。
病棟への廊下を歩きながら、痛切に思った。