人斬りの花 15

沖田 穂波  2009-07-12投稿
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3-2 香

抄司郎は,
柳瀬屋の前で妙な男達とすれ違った。
だが今は,
椿の明かした過去の事でいっぱいで,
そんな事を気にしている余裕などない。

行く宛はないが,
足早に町を歩いた。

風にのって威勢の良い掛け声が聞こえる。
近くに道場でもあるのだろう。

抄司郎は目を閉じて,
まだ純粋に,剣に励んでいた頃の自分を懐かしんだ。


『抄司郎じゃないか!!』

1人の男が肩を叩いた。

『‥お前は。』

『嫌だな。忘れたのか。
平太だよ。よく一緒に遊んだじゃないか。』

この男,
近藤 平太と言う。
道場時代からの唯一の友人で,幼少の抄司郎とはかなり親しみがあった。
その平太と顔を合わせるのは,四年前,
武部に雇われて道場を去った日以来である。

『忘れるものか。
本当に久しぶりだなぁ,四年ぶりか。』

『そうだな。だが抄司郎,見ない間に随分目つきが悪くなったな。声かけようか迷ったぞ。』

平太も人斬りとしての抄司郎を知らない。

『そうかな,自分では分からないが‥。』

『そういうもんさ。
所で,もう聞いたか?道場の事。』

平太は急に声を縮めた。

『道場?』

悪い予感がした。
こう言う時,抄司郎の勘は嫌な程当たる。

『道場が潰れたらしい。どうも多額の金を要求されて,払えぬなら肩代わりに道場をと強いられたようだ。何の金だかは知らんが,急なことで俺も驚いたぜ。』

― 武部だな‥。

すぐに予測はついた。
武部の元から離れた今,いつか道場に手を出すと思ってはいたが,
まさかこんなにも早いとは抄司郎も想定外の事だった。

『それで‥師匠は?』

『ああ,道場追い出されて,川縁のぼろ長屋にいるそうだ。』


抄司郎は怒りに震えた。


≠≠続く≠≠

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