ナースステーションの前を龍吾は通りかかろうとしていた。その時、看護師から話が聞こえた。
「飯岡さん…今夜が山なんでしょ?」
「そうね…もうお母さんに頑張ってもらうしかね…。」
それを聞いた龍吾は、
「すいません。お母さんが今夜が山って本当ですか?」
「あら…お姉さんから聞かなかった?」
「姉ちゃん…。」
高ぶる気持ちを抑え、龍吾は外に出た。携帯を確認すると、
「みーくんから来てる。」
『何時になるか分からないけど、とにかくそこへ行く』
「おっ…。」
龍吾は辺りを見回す。すると、
「龍吾!」
「みーくん!」
龍吾は必死に笑顔を作った。
「これ…お母さんに。」僕は花束を渡した。
「あっ…サンキュー。」「お母さんの方は?大丈夫?」
「お、おぅ。」
「良かった。」
「また…暇なときキャッチボールしような。」
「うん。」
「じゃ…オレは行くな。」
「待って。」
「えっ?」
龍吾は戸惑った。
「お母さんに会わせてくれないかな。」
「あぁ。そうだな。」
「ごめんね。」
龍吾の後をついて行く。その背中は寂しげだった。
午後8時。
「ここが、お母さんの病室。」
「うん。」
ドアを開けたその時!
「お母さーん!」
あの…音が…
ピー―――――…。
鳴り止まない…この音…「えっ…。」
龍吾は……涙が止まらなかった。だって親に捨てられたオレ達を必死に育ててくれたお母さんはもう二度と…動かないのだから。