ホスピスに入院してから三ヶ月が経った。
ペインクリニックのおかげて、痛みはほとんど感じないが、私の中の癌は確実に進行している。
身体の自由が日ごとに奪われて行くことまでは、防ぎようがない。
コウの介護は、献身的だ。
アパートで約束したとおり、私のそばから一瞬たりとも離れようとしない。
「そんなに根を詰めてると、コウが倒れちゃうよ」
私が何度となくいうのだが、全く取り合わない。
「僕はね、さゆりさんのそばにいて、さゆりさんの顔を見て、声を聞いて、肌の温もりを感じていられることが幸せなんだ。さゆりさんから離れてたら、変になっちゃうよ」
そう言って、コウは笑う。
コウはどんな時でも明るい。
私の身体が思うように動かなくなって来ていても、私を笑わせてくれる。
「いよいよ、さゆりさんに仕返しができる」
私が「どうしてよぅ?」
と訊ねると、耳元で囁く。
「今度は、僕がさゆりさんの下の世話をしてあげる。恥ずかしいぞぉ!」
「バカ!ちゃんと看護師さんがしてくれるの。コウの世話になんかならないよ」
何につけても、こんな具合だ。
コウ、すごく感謝してるよ。
でもね、私は知ってる。
私が見ていないところで、涙を流していること。
そりゃわかっちゃうよ。
食器を返しに行って、帰ってきたときのコウの目。真っ赤なんだから。
「ちょっと、トイレ」
って出て行って、何十分も帰って来ないんだもん。
まだまだ修行が足りないよ。
でも、そんなコウが、大好きだよ。
コウがいてくれて、本当によかった。
ありがとう、私のコウ…。
【ホスピスについて】
ホスピスといえば、安楽死を提供する施設のように思っている人も多いが、とんでもない誤解である。
ここで行われる治療は、患者の苦痛を取り除くことに最大の努力がなされる。
特に疼痛のコントロールが大きな柱となる。
つまり、末期癌の患者が、最期の時まで、快適で、『患者自身の選択と意志にもとづいて生き抜くことを応援する施設』である。
だから、もちろん本人の希望があれば、通常の制癌治療も提供されるのだ―\r