だから私は、自分の全てを、その髪の毛一本に託して、あなたの中で生き続けます。
決してあなたの邪魔にならないように…。
あなたが、私の存在すら忘れてしまうようなかたちで、
あなたをずっと見守ります。
大切な奥さんと、可愛い子供たちの幸せを、見守ります。
ナースだっていうのに、非科学的?
……だよね。
でもね、科学で説明のつかないことなんて、いくらでもあるのよ。
だって今、
現実に死んでしまった私が、こうしてコウと話してるじゃない?
これは、幻想なんかじゃないのよ。
心の声で話してるの。
それにね、
私はもう吉村婦長じゃないもの。
患者さんのお世話をするナースじゃないもの。
あなただけを愛し、あなただけのために最期の半年間を生きた、吉村さゆりという、ただの女だから。
愛する人の幸せだけを願いながら逝った、ただの女だから…。
ナースとして数え切れないほどの患者さんのお役に立てたことより、
あなたひとりに愛されたことが、私の四十六年の人生でいちばんの誇り。
そして、
死の瞬間まであなたを愛し抜いたことが、私の人生の勣(いさおし)。
コウ…。
ありがとう。
私の最期のわがままを聞いてくれて…。
ねえ、コウ。
涼子の言ってたこと、
嘘っぱちだったね。
人間は死んだら、おしまいって…。
人間は、肉体が死んでも、
魂は、愛する人の心の奥で、
生き続けるんだね。
じゃあ、
さゆりはもういきます。
あなたが今、口にしてくれた
一本の髪の毛と共に
あなたの心の奥に入っていきます。
コウ。
さようならは言いません。
だって
お別れじゃないから…。
そのかわり…
愛してる
愛してる
愛してる…。
――――了――――
☆最後まで読んで下さってありがとうございました。
MICORO