【トーマ】
「これ…。アンタの名前を知らない人が見たら、なんの事だかわかんないね」
恋歌がつぶやく。
「ちさね。トーマと付き合う事になった次の日、言ってたんだよ。…いつも、振り向くとトーマが優しく見ていてくれたって。安心してる自分がいた、トーマに名前を呼ばれるのが嬉しかった…って。その気持ちがなんなのか、ずっと分からなかった…でも、トーマに告白されて、自分の気持ちに向き合ってみたら、その気持ちが好きって事だったんだ…って気付いたって…。ふふっ、これ聞き出すの、大変だったんだよ?」
ちさ。
ちさ。
ちさ!
ごめん…!
ちさを疑ってた。
こんな僕を、ちさが好きになってくれる訳がないって思い込んでた。
響の想いの強さを知ってから、太刀打ちできる自信さえなかった。
あの時、突き放したかのような僕の言葉が、どれだけちさを苦しめたか。
ごめん
こんなに想っていてくれたのに…!
「ちさ、まだ造形教室にいるハズだよ」
恋歌の言葉に、僕は走り出した。