「何時もありがとうございます」
「いやいや、それはこっちの台詞だよクロム!あんただけだよ、毎日この店に来てくれるのは!」
肩には大きなタトゥーをいれ、顔は髭で覆われた男がクロムの肩を叩く。
「しかし、毎日牛乳のビン2本買っていくとは、相当な牛乳好きなんだな!お腹壊さないか?」
金色の長い髪に、クリーム色のスータンを着たクロムが、両手に二本の牛乳ビンを抱え、言った。
「いえ、私が全部飲むわけではなくて、一緒に住んでいる人が、本当に牛乳が好きで‥」
「そいつの為に、毎日買って帰るのかい‥くぅ〜〜!あんた、優しいね〜!本当!地球にも、この店にも!おじさん涙が出てきたよ!!」
男は、腕毛の濃い太い腕で、顔を覆い、鼻を鳴らしながら言った。
「えっ‥いや‥おおげさでは‥?」
「はぁ〜‥」
深いため息をつきながら、クロムは部屋の扉を開けた。
「‥鍵が開いていたぞ、クロム」
「・・・・!」
部屋の奥の扉が少し開いていて、そこから声がする。
「憂牙!帰っていたんですか‥お帰り!」
クロムは奥の部屋の前まで駆け出し、暗い部屋のソファーに寝そべり、本を顔の上にかぶせている憂牙に嬉しそうに話しかけた。
「‥“鍵が開いていた”と言っているんだ、クロム」
「‥あっ‥その‥下の食品店にちょっと行っていただけで…すいません」
本を顔からどかし、起き上がる憂牙。クロムの手に持っているものを見て、ため息を付く。
「牛乳屋でも始めるのか?冷蔵庫に1リットルの牛乳ビンが10本入っていたぞ」
「‥すみません」
少し落ち込んでいるクロムを見て、憂牙は、また短くため息をついた。そして、ソファーから立ち上がり、クロムの手に持っている牛乳ビンを一つ取り、またソファーに戻った。
深く腰を掛け、牛乳を“ゴクリ”と飲み始める。半分位飲んだところで、ポツリと喋り始める。
「‥“自分の生きた痕跡を自ら消した者”と“自分が存在している痕跡が無い者”…そして」
憂牙はクロムの顔を見上げ、言った。
「‥“自分の生きた痕跡を無くした者”」
「・・・?」
「一週間ぶりだなクロム‥‥ただいま
〜歩み〜終