『今夜が山。』
今夜が山…今夜が山…
「母ちゃん…」
立ち会っていた医師が、「ご臨終です。」
「…うっ…」
涙が止まらない龍吾を僕はただ励ましていた。こんなに泣いている龍吾…初めて見たから。
その泣いている龍吾をただ励ますことしかできない僕が残念で仕方がなかった。
「龍吾…」
僕は力なく龍吾に呟いた。
「ごめん。龍吾。来ないほうが良かったよね。」「…大丈夫…」
重い空気が漂う。
「お姉さん…」
お姉さんも、微かな声で僕に言ってきた。
「私…龍吾に本当のこと言わなかったから、こういうことになったんだと思う。」
「お姉さん…。」
「私が龍吾に嘘をついたから…お母さん、頑張れなくなったんだ…。」
1番ショックを受けているのは姉さんだなと、心の隅でどこか感じている自分がいた。
そんな事を思っていると、龍吾が
「みーくん…帰らなくて良いのか?」
「……。」
「帰らないと、怒られるんじゃないのか?」
「うん…。」
僕は曖昧な返事をした。龍吾はそんな僕の核心に迫ってきた。
「帰りたくないんだな?」
「うん…」
「帰った方がいい。たった1つの家族なんだろ。」
「うん。そうだね」
僕はこのとき思った。
自分がどれだけ小さな事で悩んでいたのか。
どれだけ辛くても、こうして頑張っている人がいるのに…。
そんな自分の未熟さに腹が立った。
「じゃあね。」
「あぁ。ごめんな。悲しくさせちゃって。」
「いや。こっちこそごめん。」
帰ると、
「どうしたの。こんな遅くまで。」
一瞬びくっとした。
「いや。ちょっと先生に呼ばれて…。」
怒られるだろう。でも意外な答えだった。
「ご飯。できてるよ。」「えっ…?」
友情は少しずつ、母親にも認められ始めたのかもしれない。と僕は感じた。