君が微笑むから,僕はどうしていいか分らずに目を伏せた。
朝の人並みに,君は見え隠れして揺れる。
ここから2つ目の駅。
僕と同じその駅で君は降りる。どこから乗って来るのかは分らないが,いつも同じ3両目に乗っている。
君を初めて見た時,僕は妙な気持ちになった。
胸が苦しい様な,疼く様な。
これが恋なのかは分らないがどうも気になってしまう。
僕は決して卑怯な男ではないが,君に気付かれないように微かな隙間から君を見た。
何となく切ない気持ちになる。
何のだろう?
この気持ちは…
「次は〜羽山,次は〜羽山」
駅に着くと,まるで洪水の様に人が外へとなだれ出す。
「あの…」
背後からか弱く呼び止められ振り返ると君がいた。
「あの…」
どうした事だろう。気付かれないように見ていたつもりだったが…もしかしたら不快な気持ちにさせたのか。
「あの…もしかしてタケル君?」
君が僕の名前を呼ぶから,これがあまりにも意外な展開だから,僕はただ
「あ…ハイ」
とだけ答えた。
すると君はまるで,大袈裟じゃなく本当に太陽の様に微笑んで
「私サキだよ!!隣りに住んでた…」
と子供の様にはしゃいで見せた。
俺はやっとこの妙な気持ちの正体が分った。
「サキちゃん…!!!」
20年ぶりにその名前を呼ぶと,淡く甘酸っぱい初恋の記憶が蘇った。
終