今夜は各々 怪盗ねこひげの襲来に備えて早めに眠ります。
猫丸の、奴も猫なら最も活動し易い時間帯を選ぶだろう。との判断に加え猫八も、うむ、予告状なんぞ ふざけたまねをするほどなら正々堂々 日が暮れてから来るだろう。と同意したため子猫も倣う事にしたのです。
山の端いと近うなりし時も とうに過ぎ、日 入り果てて風の音 虫の音などが闇夜に落ち着かなげな気配を漂わせる月のない晩、子猫が生暖かな風にヒゲを揺すられ目を覚ますと夜闇に佇む猫影が子猫を見つめていたのでした。
佇む猫の輪郭は仄青白く光りを放っています。
誰にゃ...?
子猫が かすれ声で恐る恐る尋ねても返事はありません。
しかし閉ざされていた まぶたが カッと見開かれ爛々と輝く瞳が子猫を睨みつけたではありませんか。
息を呑む子猫に向かって謎猫は言い放ちます。
おまえらのような伝統や風習の元来の必要性を知り継承しようとせぬ礼を欠いた者達が大勢を占めたせいで我々 古参の価値観は生存すら ままならないではないか!いったい、我々に どこで活きろと 言うのだっ
そのように既存の智恵を ないがしろにするような やからは温故が失われ新たな発展が ついえる苦しみを知るがいい!
さあ!この猫缶 大トロ風味を おまえにも味わわせてやる!
と猫缶らしきシルエットを掲げ もう一方の おてての先で子猫を鋭く示します。
子猫は まるで実際に首根っこを掴まれたかの様に身を凝ごらせ驚愕の声をあげました。
にゃっにゃにー!
古来より猫跨ぎと称され猫の繊細な味覚には脂っこ過ぎて嫌遠されてきた大トロを猫缶の味付けに採用するだなんて無思慮な行いっ、いったい どこのどいつの仕業にゃー!
決まっておろう!
こんな何時でもフレッシュな御飯を美味しく食べるために技術を惜しみなく開発に注ぎ狩りもせず我々の愛らしさを求めるのは人間以外に おらぬわ!
そして猫は その無理解に辟易しつつ大目にみてやるのだ〜ぁ!
にゃー!?
と うなされ手足をジタバタさせる子猫を揺り起こす者がありました。
おい、起きろ。
にゃ、にゃにゃ?
そろそろ奴が来る。
そう、時刻は草木も眠る丑三つ時、怪盗ねこひげも いそいそと活動を始めるであろう頃合いです。