慌てて父は電話に出る。
「もしもし、ああ隆史? うん、うん。よし」
どうやら電話の相手はお兄ちゃんらしい。
それにしても私、今のうちに出かけられるんじゃない?、
「よくやった!! 母さん、隆史が8時25分36秒、転校生を確保だ!!」
「やりましたね!!」
「何が?! っていうか、お兄ちゃんなにやってんの!!」
電話を切りながら父は涙目で言った。
「タイミングを合わせるためには仕方のない犠牲なんだ」
「どこがよ!! そんな犠牲は1ミクロンも要らないでしょっ!!」
私のツッコミに父はいち早く反応した。
「メグミ、ツッコミがベタだなぁ」
「ぐっ……」
なんだか恥ずかしくなってきた。
こんな父にそんなこと指摘されるなんて……
あぁ、顔が熱くなってきた。きっと私今、顔真っ赤だ。
そんな私の頭にふわりと何かが乗る。
母の手だった。
「でも、お約束ですからね」
「え? お母さん?」
やさしげに微笑む母。
「そうなんだ、お約束。つまりはベタ」
気づいたら父も手に腰を当て、笑ってる。
なにこの家族団らんな感じは?
「ベタ最高!! ベタこそが世界の安定をもたらすのだ!」
「これで我が家も安泰ですね」
「バンザーイ、バンザーイ!」
夫婦二人でバンザイをする姿を見て私は再び沸々と怒りがこみ上げてきた。
「もう止めてっ!! お約束だのベタだのって!!」
私の怒りに、二人は一斉に私を見て驚いていた。
「私は今まで学校生活だけじゃなくて友達も恋愛も全部、全部、お父さんのお約束に縛られてきたの!!」
そうなのだ。こんなベタな場面を家族で演出させられるのはこれが初めてじゃない。
入学式、遠足、クラス替え、修学旅行、卒業式、ありとあらゆる行事をベタな展開に運ぶべく、私の家族は色々と工作してきたのだ。
お陰で私がどれだけ迷惑してきたかこの人たちは知らないんだ。
クラス替えでは常に私のクラスだけみんな同じ面子、遠足では無理やり父が私を列から離し、迷子になったり。(友達も巻き添え)
修学旅行では母の先導で地元の学生といざこざ。卒業式では無理やり好きだった男の子の第二ボタンをお兄ちゃんがむしり取ったり。
もう、嫌っ!!
「私の生活返してよ!!」
必死の抗議にさすがの両親も黙ってしまった。