今年は例年より早い梅雨明けだそうだ。
教室ではみんなうちわかシタジキ。
『うだる』って言葉はこういう時に使うんだろう。
学力でいえば中の中。
天才高校生プロゴルファーのように世界と戦うわけでもなく、ただ毎日をすごしている。
別に思い出したい訳じゃない。
だけどこの季節になるとどうしても思い出してしまう。
母が家に帰ってきたのは、いなくなってから一ヶ月後。
母の顔は白く、
なぜか箱の中で寝ていた。
父が泣いていた。
初めてだった。
父があんな顔をしているのを見るのは。
当時の僕はなにがなんだかわからなかった。
父は何もいわない。
祖母は『大丈夫、大丈夫』とただ繰り返していた。
僕はただ座っているだけだった。
前おじいちゃんのサンカイキのときにお寺にあったおいしいお饅頭があったので
ずっと食べていた。
その日が母に会った最後の日
いまとなればわかることも当時の"僕"はただ見てることしかできなかった。
別に思い出したいわけじゃない。
家でもこのことは追求しないことが暗黙の了解になっていた。
年を重ねるごとに記憶は薄まっていく。
このままオトナになって忘れるだけだとおもった…。