「ふん、…仲間から話は聞いておろう。
兄、平松玄斎が仇、結城兵庫(若い頃の名前)!、尋常に勝負致せ!」
「貴殿は言葉の使いようを知らぬ。
どこが尋常か?」
兵庫ノ介は、おのれを取り囲んだ十名ばかりの浪人と、弓矢を向けた三名、槍を携えた四名に鋭い眼光を飛ばしていた。
残りが橘きょうだいと伍助を囲んだ様子。
「ほざけ! うぬが卑怯なる手を用い、兄者を討ち果たしたに相違ないわ!
兄、玄斎に成り代わり、この平松源次が相手致す!」
「言うても聞く耳もたぬ様じゃな…
伍助、存分にせいっ!」
「へェ!」
その声を合図に、橘きょうだいと伍助が兵庫ノ介にならい、鉢巻きの上に巻き上げていた紗の虫除けを引きおろす。
直後、つぶて打ちに伍助の放った卵が、立て続けに敵の体に命中していった。
にわかにブ〜ンと蜂の羽音が敵方から響き、浪人衆が恐慌をきたし始める。
兵庫ノ介たちの、白装束に虫除けの面覆いは蜂に対する備えであったのだ。
「うわッ、お、おのれェッ! 小癪(こしゃく)な真似を!」
スズメ蜂の襲撃を振り払う間に、兵庫ノ介が片ッ端から兜割りの痛撃をお見舞いしていった。
「結城ッ!いざ勝負!」
蜂にやられて別人の如く顔を腫らした平松源次が左手を出し、すくみの術を掛けようとした。
「カアアアァーーッ!!」
はらわたが引き千切れる程の気合いをいち早く放つ兵庫ノ介。
おのが術をまともに返され、ピクリとも動けなくなった平松。
「お二方!今にござる」
「はいっ!」
兵庫ノ介の声に応じた橘姉弟。
(終わりじゃな……)
橘小太郎の振り上げた白刃に、朝の陽光が一瞬キラリと反射していた。
「ふむ、…暁の剣、か」
結城兵庫ノ介は、小太郎の剣さばきに末頼もしさを覚え、ニヤリと苦み走った笑みを浮かべていた。
完