ケータイと睨めっこしてもう何分だろう、正悟は深刻そうな顔つきで画面を見入っている。
どうにも気になるが家族の問題ならボクがどうこう言う権利も義務も無い。
誠さんには小さい頃に一度だけあっただけなのだが、なかなかイメージが残る人で、正悟とは正反対の性格。
前崎誠、なんとなく分かると思うけど、彼女は正悟の姉に当たる人だ。
そういえば正悟は最近本家の方には顔を出してないって由に聞いた気がする。
「ピッピピピッ」
今度は電話を掛けている、相手は誠さんだろうか、だとすると本家に帰って来いとでも連絡がきたんだろうか?
いや、普通の連絡だったら徹さん辺りがやるだろうから違うか?
聞きだい欲望が渦巻いているなか、ボクはキッチンの方に移動した。
……会話の内容は聞き取れないが声色からすると真剣な様だ。
ちなみに本家というのは正悟の実家、今正悟は親戚の家に厄介になっている。
―――――どうやら終わったみたいだ、気付くと飲もうと思っていたお茶が無くなっていた。
「正悟、勝手に人の飲むなよ」
「ちょっと野暮用が出来た、んじゃな」
おいおい、人の話を聞いているのか?
マンションの廊下から見える景色は雪によって色を失っていたが、空は痛いぐらいの快晴。
外の空気はそれでも凍みて、背中が自然に丸くなってしまう。
これじゃ今日の夕方頃には全部融けてしまうな、なんて考えながらエレベーターで一階に降りた。
道には融けかけの雪が足跡を残して水溜りを作り出している、自然と家に向かう足が重くなる。
ああ、家っていってもオレの本当の家じゃないんだ。
―――――頭に残るのは電話越しに聞こえてきた声。
日常に怠けていた所為だろうか実感が湧いてこない、お蔭で酔いはスッカリ醒めてしまいった。
マンション前の道路を渡るとやっと朝の香りを感じる事が出来た。
早い初雪の訪れは
あの時以来だな。