「これだけは分かっておくれよ。自殺するということは、自分を殺す、ということだ。そうだろう？」
亡霊が僕の耳元で静かに囁いた。
「つまり自殺は殺人だ。自分という人間を殺すということは、立派な人殺しになるということなんだよ」
その亡霊の言葉は、僕の心に重く響いた。
僕は震えた指で銃を握りしめ、銃口を自分の頭に向けている…。
「そんなことをしたら、キミはあの世で殺人の罪で問われると思う。それでもいいのかい？」
僕のような愚か者は死ぬべきなのだ。
それなのに、なぜ、なぜこの亡霊は…。
「ぼ、僕はあなたを殺した。その罪を償うために自殺するのです。それなのになぜあなたは僕を止めるのですか…」
僕は泣きそうになるのを堪えながら亡霊を見た。
亡霊は困った顔で答えた。
「それは…。まあ、とにかくキミは、自殺以外の方法で罪を償うべきだ」
「いや、僕は愚かな人間だ！死んで当然なんだ！」
少しの沈黙の後、亡霊が口を開いた。
「そうさ、キミは死ぬべきだ…」
その言葉に僕はびくりとした。
「ど、どういうこと？まさかあなたは…」
僕を………。
「さあ、その銃を渡せ。お前を殺してやる」
そう言って亡霊は僕の手から銃を奪い取った。
「やっぱりあなたは、僕を恨んでいたのですね」
僕のまわりから光が消えていくようだった。
「いや、恨んでなんかいない…」
亡霊は不気味な笑みを浮かべて言った。
「あの世でキミが、殺人の罪に問われないための、ワタシなりの気遣いだよ」
「え……」
「だからワタシが、キミの代わりに、キミを殺してあげるよ」
しばらくして僕は思った。なんて気の利く亡霊なのだろうか、と。
僕は亡霊に感謝をしながら、やがて、息をしなくなった。全く動かなくなった。ただの抜け殻になった。
つまり、死んだ。
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