ミユキはトイレを探しに、居酒屋の廊下を出た。
まっすぐな木の廊下を、ミユキはソロソロとトイレの方角に進んで行くと、両サイドには、障子で閉めきられた幾つかの個室があった。
その中に、ひときわ盛り上がっている大部屋がある。
黙って通り過ぎようとしたが、やがて一人の男の声がミユキの耳に止まり、立ち止まった。
「亀山しゃん!トコトン飲んでくだちいな!ワタシも今日は飲ませていただいておりオリオリオ〜、イェリイェリイェリイェ〜」
――この、俳句ともつかぬ、ラップともつかぬ言い回し…間違いなくアノ男の声だ。
ミユキは、中にいる人間に気付かれないように、そっと障子のすき間から、内側の様子を覗いてみた。
すると、座敷の真ん中あたりで、鼻の穴にタバコを2本突っ込み、手にはビール瓶を抱え、亀山にビールを注ごうとする抽選会場の男の姿を発見した。
そして亀山の隣りには、『ラーメン年金問題』改め『ラーメン定額給付金』の店主が、風呂屋改め焼きそば屋のオヤッサンと、向かい合って談笑しているのが見えた。
ミユキは、この集まりが何なのか、すぐには理解出来なかった。
総勢20人は居るであろうか…そのほとんどがミユキにとって見覚えのある人間だった。