龍吾は振り落とされてくるバットを両手でおさえた。でも…。
「いってぇ…。」
力一杯振り落としてきたため、腕にかけて痛みが走る。
「そうか。痛いか。」
「くそ…!」
「龍吾…。」
僕は力なく龍吾を呼んだ。
「大丈夫…オレが守る。」
僕は龍吾からもらったグローブを抱きしめ、必死に痛みをこらえた。
「じゃあ、もう一発!」龍吾は何とかよける。しかし龍吾は腕を押さえている。これでは龍吾にバットが当たるのも時間の問題だった。
その時、凄まじい金属音がした。
僕は目を龍吾に向ける。その光景は、余りにも残酷だった。
手で背中を押さえる龍吾。その手は血が滲んでいた。
「何すんだよ…。」
背中の痛みを堪えながら龍吾は睨みつけた。
「もうお前に用はない。ほら岬、行くぞ。」
「えっ…行かないって約束したじゃん!」
父は僕の話を無視し、龍吾の方を向いた。
「お前に言っておきたい事がある。」
龍吾は背中をさすりながら、
「何すか。」
と答える。
「今から岬は…転校させる。だから、もう縁を切っておいた方がいいぞ。」
「お父さん…僕は…。」するとまたバットを持ち、僕に近づいてきた。
「言うこと聞かない奴は、殴るしかねえなァ。」もう…何も言えなかった。父には…逆らえなかった。
過去の記憶…。
バットで…僕の体を力一杯殴る。…僕は必死に耐えて耐えて耐えてきた。その結果…僕は体中痣だらけだった。勿論今も痣だらけだ。
…そうだよ。耐えれば父の気が済むんだ。
…耐えればいいんだ。