気まずい空気が流れる。
二人が少し悲しそうな顔をしたような気がした。
そんな顔したって私は怯まないから。
「何? ホントのことでしょ!?」
すると両親は私の目の前でヒソヒソ話を始めた。
そういうことは少し離れてしてよ。
「メグミ、よく聞いてくれ」
「なに?」
父は俯き加減で声のトーンを落として話始めた。
「私たち家族は皆、平凡とはかけ離れた生活を送ってる。お母さんは『パートのくのいち』として生きてきたし、父さんは『公務員』、お兄ちゃんだって『女子高校生』として頑張ってる」
「はぁ?(ツッコミどころ満載だけど)」
「そして、お前だって本当は……いや、皆まで言うまい。せめてメグミには平凡でベタな生活を送ってほしいのだっ!!」
「これのどこが平凡なのよ!!」
すると急に父は私の両肩を掴んだ。
「平凡とは違うか? だが、ベタだ!! 普遍なのだよ!!」
力強く掴む父の手を私は体で感じる。
一瞬父が大きく見えた。もの凄い迫力に私は何も言えない。
久し振りに父が父親らしく見えた。
かなり強引だけど。
「ベタに生きれば先の展開に焦らず安心して生きられる。非常時に生きる家族の気持ちも汲んでくれ」
「お父さん!」
「メグミ!」
父は両手を広げ、私は駆け寄る。
私達は分かり合えたのだ。
家族を思いやること。
いいえ、何より普遍的に生きること。
それがどんなに素晴らしい事か!!
予定調和? ノンノン。
分かっていることを楽しめる。
平凡を楽しめるって最高じゃない!!
そして二人の距離が縮まる。私は父の両腕に包まれるその瞬間――
私は父へボディーブローをアッパーカット気味に打ち込んだ。
拳には重い感覚がのしかかる。
私はそれに負けないよう全てを解放すべく腕を振りぬいた。
「ぐおぉぉぉっっっっ!!」
父は一瞬体を浮かせた後、膝から前のめりに崩れ落ちた。
お尻を突き出した格好でうつぶせに軽く痙攣してる。
私は倒れる父へ近づいて上から見下ろす。
「私はベタが大嫌いなの! あんなのただパターン化して怠けてるだけじゃない!!」
「うぅ……大体あってる」
「お父さん肯定しちゃ駄目っ!!」
「か、母さん。しかし……」
私は父の横を通り過ぎ玄関へ走る。
これで父は片付いた。