ポジティブ・アクション

ミッシェル  2009-07-25投稿
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午後8時頃。

激しく降る雨が、夜の歓楽街を叩きつける。

しかし、それでも人々は縦横無尽に歓楽街を歩き回り、何時もと変わらず多くの人々で賑わっていた。

眩しく光るネオン。沢山の人々を見下ろす無数の摩天楼。

そこはまさに眠らない街である。


「今日は遅いな」

一台の黄色いタクシーが、高級レストランの入り口の前に停まっていた。

そのタクシーの運転席にて、男が煙草を吹かしながらレストランの入り口を見つめている。

フロントガラスを何度も往復するワイパーは、決して崩れる事のない一定のリズムを刻んでいた。

やがて8時15分を廻った頃、レストランの入り口から1人の若い女性が姿を現した。

女性はなるべく雨に打たれまいと必死にタクシーに向かって走り、そのドアを勢いよく開け放つ。

そして車内へと飛び込み、そのドアを勢いよく閉めた。

「ハァ、ハァ、酷い雨ね。もうこんなに‥」

あの僅かな間なのにも関わらず、彼女はすでに全体を通してずぶ濡れとなっていた。

それだけ雨は激しく降っていた。

「ははっ、ごくろうさん。じゃあ行くか」

男は煙草を吸い殻に捨て、ハンドルを握った。

しかし、彼女の返事がない。

それで彼はふと、バックミラーを覗いてみる。

すると、顔を俯かせ、悲しげな表情を浮かべている彼女の顔が飛び込んできた。

彼はすかさず言う。

「どうかしたのか?」

彼女は顔を俯かせたまま

「…行きたくない」

小さな声で答えたが、彼には勿論聞こえていた。

「どうしたんだ」

「ごめん‥何でもないわ。早く行きましょ」

俯かせていた顔を上げ、彼女は無理やり微笑んで見せた。

「なんか気になるな。まあ、いいか」

そう言って彼はアクセルを踏み、目的地に向かって走り出した。





続く


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