夜明け前のうっすら明るい空と、潮の香りを運ぶ心地よい風。
港町にそびえる一軒の家。二階の窓から海を眺める陽介。
「今日もいい天気になりそうやなー。」
背伸びをして窓を閉める。
「陽介ー。ご飯できてるよー!」
「おー。」
母の呼びかけに返事をし、階段を降りる。
木村陽介、25歳。
一年前に父を亡くしてから母と二人暮らし。
「おはよ。もう時間でしょ?
早くご飯食べて準備しなさいよー。」
椅子に座り味噌汁をすする。
「あー、うめぇー。」
「のんびりしてると遅れるよ!」
「はい、はい。」
せかされながらご飯をかき込む。
「今日の店番、彩に頼んどいたわ。」
「またー?いつもいつも彩ちゃんに頼んでばっかで迷惑でしょうが。」
「だーいじょぶやって!
あいつ昼間ヒマみたいやし。」
「あんたにね、あれもこれもできるわけないんだから店辞めるか、アルバイトでも探したらどうなの?」
「あんなヒマな店、バイト雇っても給料払えんでしょ。でも店は辞めねぇよ?」
「だからって彩ちゃんにばっか頼っ…」
「んなら行ってきまーす。」
母の話を途中でさえぎり、立ち上がる陽介。
「いってらっしゃい。」
半ば呆れた様子で見送る母に背を向け、弁当をかつぎ軽トラックに乗り込む。
同じ頃、都心のあるマンション。
薄暗い部屋の中、パソコンに向かう合う洋人。
「はぁ〜。」
ため息をつき、パソコンを閉じる。
カーテンの隙間から見える街並み。
いつもと変わらぬ景色。
松山洋人、25歳。
地元から上京、就職してから3年目の会社員。
時計を眺めるとすでに出かける時間である。
部屋を出て、いつものバス停までの道を歩く洋人。