その時、
「やめろ!」
龍吾が咄嗟にかばってくれた。
「やめて下さい。お願いします。」
「お前には関係ないだろ。」
「みーくんは!バットで殴られることが怖いんです。」
「知るかそんなもん。」龍吾は僕を必死にかばってくれた。なんて表現したら分からないくらい、嬉しかった。
「みーくん。こいつと一緒に行ってはダメだ。逃げるぞ。」
龍吾の目は、何かを決意したかのように鋭かった。
「う…うん。」
「大丈夫か。」
龍吾の方が痛そうなのにまず僕の心配をしてくれた。
2人は力一杯逃げた。
辺りはもう真っ暗だった。気がつくと、田んぼのあぜ道まで来ていた。
「もう…大丈夫。」
龍吾はその場に腰掛ける。僕は緊張が解けたのか急に体中が痛くなった。「痛い…。」
すると龍吾も、
「オレも…。」
と言って龍吾も腕をおさえる。
「ちっと殴られすぎた。」
「ごめん。僕のために。」
龍吾は笑みを浮かべて、「オレが…オレの体がなんか…騒いだんだ。で、来てみたら、やっぱり…。」
僕は嬉しくて涙がでた。「泣くなよ。みーくん…」
辺りがどんどん暗くなっていく。
「今日はウチ泊まってけよ。また殴られるとオレも心配するから。」
「分かった。」
「それよりさ…。グローブ、持っててくれたんだな。」
「…汚れちゃったけどね。」
「いや…嬉しい。オレ…あげて良かったって思った。」
龍吾に笑顔が戻る。僕も自然と笑顔になれた。
でもなぜか龍吾は真剣な顔に戻った。龍吾にはひとつ、気にかかることがあったからだ。
「それでさみーくん…。オレ、信じられないんだけど、転校するのか?」「まだ…分からない。」僕は笑顔が消えて、下を向いたまま答えた。
「…だよな。親が勝手に決めてるんだもんな。」「…だね。」
適当に相槌を打つしかない。僕も急に言われたことだから。
もし、転校する事になったら、どうしよう。
僕の胸に暗い闇が渦巻き始めた。
龍吾は泣いていた。
僕はただ龍吾の言葉を素直に聞くことしかできなかった。