【楽園】第四話
それからというものの、名無しはおばあさんがくれた時計を片時も離しませんでした。
まるで自分の体の一部のように、常に持ち歩きました。
感情とは無縁な時を過ごしていた名無しでしたが、やがて名無しはおばあさんと一緒に過ごしていくうちに、おばあさんに対して特別な想いを抱くようになりました。
勿論それが何なのか、今の名無しには分かりません。
ただ、おばあさんに対する“感謝”という気持ちは薄々気付いていたのでした。
「一緒に散歩でも行かないかい?」
ある日、おばあさんは名無しにそう言いました。
名無しは何も答えませんが、おばあさんにはちゃんと名無しの心が分かります。
やがて二人は、小さな町へと到着しました。
勿論、名無しの手にはおばあさんがくれた大事な時計が握られています。
おばあさんはとてもウキウキしながら、名無しに色々な事を話しました。
うんともすんとも言わない名無しですが、それでもちゃんと心の中では楽しんでいます。
そして、名無しは時々おばあさんに向けて満面の笑みを浮かべるのでした。