「着いたぞ」
男の運転するタクシーは、高級住宅街の中でも一際目立つ一軒の豪邸の前で停車した。
その豪邸は全体を黒で統一されており、夜中に見るといつもよりも増して不気味に見える‥。
「ありがとう。はい、これ」
彼女はそう言って、男に運賃を手渡す。
「どうも。じゃあな」
「えぇ、また」
しかし、彼女はそう言ったものの、中々車内から出ようとしなかった。
暗い表情を浮かべながら、まるで何かを訴えるかのようにひたすら男を見つめている。
「一体どうしたんだ。何かあったのか?」
男は怪訝な顔をしながら、彼女に尋ねた。
「‥ごめんなさい。何でもないの。気にしないで‥じゃあ、またね運転手さん」
彼女はそう言って、ドアを開けて外へ飛び出した。
豪邸の門を抜け、滝のような雨に打たれながら彼女は必死に入り口の方へ向かって走っていく。
「ふぅ〜‥こりゃあ何かあるな」
車の中で男は一人溜め息をつき、再びハンドルを握ってアクセルを踏んだ。
ずぶ濡れの彼女は、豪邸に着くと真っ先にバスルームへと飛び込んだ。
雨で濡れた体を洗い流し、汚れた茶髪を入念に洗う。
そして15分シャワーを浴び続けた後、バスローブを着てリビングへ向かった。
リビングに着くと、やはりそこにはあの凶悪な、彼女の悩みの種がいた‥。
「何だ、帰ってたのかメアリー」
「ゲイリー‥」
彼女の名前はメアリー。茶髪の青目で、ショートカットがとても似合うスタイル抜群の美女だ。
男の名前はゲイリー。大柄で、いかにも屈強そうな男である。右腕に刻まれている大きな深い切り傷が印象的だ。
「ふっ、俺はこれから大事な用がある‥じゃあな」
ゲイリーはそう言って、テーブルの上に置いてあるアタッシュケースを手に持つ。
それを見てすかさずメアリーは言う。
「あなた‥いつもそればっかり‥私の事なんてどうでもいいのね‥」
彼女はそう言いながら、知らぬ間に涙を流していた‥。
続く