「じゃ、ジョギングしてくるわ」
玄関先でちょうど仕事から帰ってきた親父にそう言うと、俺は走りだした。
別に体を鍛えているわけじゃない。
5年前からの約束をただひたすらに守っているだけだ。
俺に出来ることはこんなことくらいしかなかった。
〜5年前(冬)〜
「寒ッ!」
俺が中学2年のとき、両親が離婚した。
母親が仕事人間の親父に嫌気がさしたのか、他に男が出来たのか、俺には何の説明もなく家を出ていった。
親父との二人暮らしは息がつまりそうだった。
ますます親父は仕事に没頭し、俺が学校から帰ってきても誰も居ない。
同じ家に暮らしているのに顔も合わせないのが当たり前になっていた。
「くそみてーな人生だ」
俺は学校帰りに通る橋で、沈む夕日を見ながらポケットからタバコを取り出し火をつけた。
タバコは両親の離婚がきっかけで吸い始めた。
とにかく早く大人になりたかった。
「ガキが…。」
いきなり横から手が出てきた。タバコを取られた俺は呆気にとられた。
隣に40代後半くらいのオバサンがいて、俺のタバコを奪い、スパスパ吸い始めた。
「ちょっ…それ俺の。………ってか、オバサン誰?」
するといきなり後頭部を叩かれた。
「陽子さんと呼びなさい」
「…痛っ。何者だよ。この辺の人じゃねーだろ?見たことない。」
「あそこに住んでる」
そういってそのオバサンは川沿いにある総合病院を指差した。
「…ふーん。って、おい!患者がタバコ吸ったらいかんだろ!」
「未成年喫煙者に言われたくないわ。桜ケ丘中学2年5組、坂本遼平。」
やべ。制服の名札を見られてしまった。
俺はそそくさとその場から離れようとした。
「遼平!明日203号室にビールよろしく!おつまみはピーナッツがいいわ♪」
とんだオバサンと知り合ってしまった。
あ、オバサンじゃなくて陽子さんね。