母が死んで三日が過ぎた。僕は覚えたての寂しさという感情に、いまだ振り回されていた。
僕は大阪市内に住む14歳。まだ毛が生えてきたばかりの年頃の男だ。
母の死、お通夜、葬式、喪服のコーディネート、坊主のブッキング…。若干14歳である僕でも、身内が少ないせいか慌ただしい日々が続いた。
少し落ち着いた三日目。僕はいつものジュースを飲まされ、またあの病院に戻された。
院内は前と同じくとても静かだった。窓を開けると心地よい風が入り、外には都会のビル群はなく、広い杉林の中に穏やかな川が流れ、その先には何重もの山々が見える。
僕はここにいると何故か気持ちが落ち着いた。母の死も少しずつだが、受け入れられるようになってきた。
しかし何故こんな所にいるんだろう
病気などしていないはずなのに。
昨日、父はまた来ると言って去って行った。
僕は気付いていた。
うちが普通の家族とは少し違う事を。
父母の歳の差もそうだが、おかしな事がいくつかあった。
まずひとつ。
例のジュースだ。あれは明らかに睡眠薬が入っている。僕に帰り道を知られたくない理由でもあるのか。
ふたつめ。
父だ。外では平然を装ってはいるが、あれは完全に女だ。単におっさんが女装しているんじゃない。女が男に成りきってるんだ。前に父と一緒にお風呂に入ったとき、明らかに胸毛を書いていた。マジックで直接書いていたのだ。
そして胸毛の下の方に目を向けると、先の方だけビニールをはがした魚肉ソーセージと、里芋が二つ、タコ糸で括り付けてあった。
あの日の事はよく覚えている。
なぜなら入浴後、風呂上がりに食べようと楽しみにしていた、仮面ライダーソーセージが冷蔵庫から消えていたからだ。
その日、僕は恨むという感情を手に入れたのだ。
そしてみっつめ
僕だ。やっぱり少しおかしい。見た目はほとんど人と変わらない。しいて挙げるなら足の指先、皮膚と爪の隙間から一輪のパンジーが咲いてるということだけだ。
そして内面的な事は、感情だ。
学校の友達から、感情の波があまりないと言われる。ただ単にクールという事ではない。人にはごく普通にある感情を、僕は持ち合わせてないのだ。