(女)「ある曲か…私も聞いてみたいなあ〜」
勇一と幸子のある曲へのこだわりに、知らず知らず、女は由美や利夫が好きだった曲に、ひかれはじめていた。
いったい、どんな曲なんだろう?
(女)「あの…あなたは…あなたは、由美さんや利夫さんが好きだった曲、勇一さんや幸子さんが、たどり着こうとしている曲を知っていますか?」
(男)「…」
女の問いかけに、男は、しばし沈黙していた。
(男)「知っていますよ。もう…それすら知らないとは言えないですし」
男の素直な対応に、女は少し戸惑いながらも、何かと核心部分を避けていたことから、前進したこに、嬉しさもあった。
(女)「本当ですか?なんとなく詞の一部分はわかったけど…あなたは全てわかってるんですか?私…もっと曲の世界が知りたい」
(男)「悲しいけど…悲しいけど、相手に感謝を伝えたいって感じかな。そうゆう曲は、いっぱいあるけど…由美さんや…利夫…利夫さんは、その曲にきっと誰よりも、深い思いをもってたんじゃないかな」
(女)「誰よりも深い思い…」
(男)「ええ…」
女は、気づきはじめていた。
勇一と幸子が、嶋野と紀子によって届けられた手紙に、一度は傷つき、わだかまりがありながらも、曲の存在にたどり着き、今まで閉ざしていた部分を、氷解しようとしている姿を見て、今まで笑顔を見せなかった男が優しい表情で答えていることに…
(女)「あの…2人は『秀さん』にたどり着けるんでしょうか?そして曲の全てを知ることが出来るのでしょうか?」 (男)「きっと…きっと大丈夫ですよ。勇一さんと幸子さんが巡り合えたように、きっとたどり着きますよ。見えない導きで。あとは…」
(女)「あとは?」
(男)「あとは…『秀さん』次第ですけどね」
(女)「『秀さん』次第ですか?」
(男)「ええ…あとは、心を閉ざしているとしたら、彼かもしれないですね」
(女)「そうか…そうかもしれないですね」
男の言葉に、女は深くうなずいた。
「もしかして…」
女は、男に対して、ある一つの思いが浮かんだ。
もしかしてあなたは…