涙のせいで、目の前がかすんで見えた。
「お父さん…」
私の息子が震えながらぽつりと言った。
その声には、暗い淋しさが混ざっていた。
窓の外は相変わらず雨が降っている。
「けんじ……。元気でな」
唇が震えて、私の声はかすれた。
息子のけんじは、私ではなく、母親である由美子を選んだのだった。
けんじがじっくりと悩んだ末に出した答えなのだ…。
だからもう私は、けんじの父親ではない。
「お父さん、またお母さんと一緒に……。」
私はけんじのその言葉を遮った。
けんじはまだ、私と由美子が仲良く暮らすことを期待している。
「無理だ!父さんは、もう、けんじの顔なんか見たくないんだ!」
興奮して私の声は裏返った。
本当は、抱きしめてあげたかった。
けんじが泣くのは、とても嫌だったのに…。
「やだよ。そんなの嘘だって言ってよ!」
けんじはついに泣き出した。
私にはもう、抱きしめてあげることさえできなかった。
「じゃあ、またな…」
私は最後の別れを告げた。
「またなんて、ないくせに」
これが、けんじの最後の言葉だった。
ツー、ツー、ツー……。
私はただ、何も言わなくなった受話器を自分の耳にあてながら、ポツリポツリと降り続く雨の音を聴いていた。
それ以来だろうか…。
雨の日に、私が深い淋しさを感じるようになったのは。