昼下がりの午後、何時ものように一台の黄色いタクシーが歓楽街を走っていた。
昨日の天気とは打って変わり、空は蒼く輝いている。
やがて歓楽街を走るタクシーは、一軒のバーの前で停車した。
バーの入り口付近に立てかけられている看板には『HOLYLOVE』と書かれている。
タクシーから下り、男は『HOLYLOVE』の扉を開け、迷わずカウンターテーブルへと歩を進める。
「よぉスティーブ! やっぱり来たな!」
カウンターに座る長い髪の男が、間髪を入れずに彼に言った。
彼の名前はスティーブ・ロジャース。
この喧騒と欲望に満ちた街で、タクシードライバーとして平凡に暮らしている。
今日も彼は仕事の合間の息抜きとして、この行き着けのバー『HOLYLOVE』へと訪れたのだ。
「よぉアレックス」
スティーブはそう答え、ゆっくりとアレックスという男の隣りに座る。
その長い髪の男の名前はアレックス・シェパード。
スティーブとは幼なじみで、親友である。
「ケニーさん、ソーダ水を頼むよ」
向かいに立つ男に向かって、スティーブは言った。
「了解」と男は答え、手際よくソーダ水をグラスに注ぎ込む。
男の名前はケニー・ロリンズ。
頬に斜めに入った二本の深い切り傷がトレードマークだ。
ケニーはソーダ水の入ったグラスをスティーブの前へと置く。
そして、置いた時に差し出した右腕には、いくつかの銃弾の痕が見られる。
「どうも」
スティーブはケニーに礼を言い、ソーダ水を口に注ぎ込む。
「なぁスティーブ。今夜もあの娘を迎えに行くのか?」
アレックスが彼に尋ねた。
グラスを口から離し「ああ」とだけ答え、グラスの中で弾ける炭酸の泡を見つめる。
昨日の彼女の悲しげな表情が、彼の脳裏をよぎる。
―――明らかに何時もの彼女と違っていた‥
とても明るく元気いっぱいで、涙とは無縁な女性という印象が強いスティーブにとって、あの夜に見た彼女の表情はとても信じがたいものだった。
何故そんな彼女が涙を流したのか。スティーブはそれがとても気になり、今夜会った時に彼女に聞こうと心に決めた。
そして、そう心に決めると同時に、彼の中で嫌な予感が漂い始めていた‥。
続く