第二部【楽園】
◆第一話◆
ムクは時の止まった世界で1人立ち上がりました。
無垢な心の持ち主には、道化者と自分だけが、世界で時が止まっていないることに気付きません。
ムクは、ただただ、おばぁさんに言われた通りに小石のスベテと共に道化者を探すことにしました。
探すと言っても何処を探したらいいのかわからないのが言葉を持った者の考えることです。
しかし、ムクは違いました。
探しに行く場所がわかっているように歩き出したのです。
歩き出した方向は『南』です。
光のある方へ迷いなくムクは歩き続けました。
歩き続けたムクはスベテに心の声で話しかけました。
「私はスベテが大切。」
すると小石であるスベテがムクに話しかけました。
「あら、珍しい。
私と話せる人間がまだいたのね。」
ムクは小石のスベテが話しかけてきたことに驚きません。
それどころか
「よろしくね。
スベテ。」
と返事をしました。
驚いたのは小石のスベテでした。
「まぁ!
おばぁさんが【ムク】って名前を付けるはずだわ!
よろしくね。
ムク。」
ムクは嬉しそうに笑いました。
時が止まった中で、言葉を使ってスベテと会話をする楽しみと喜びを知りました。
ムクは長い長い時間、暗闇の中、ムクだけの時間が止まっていました。
しかし、今度は止まったのは時間です。
そして、動いているのはムクと小石のスベテと道化者。
ムクは何も疑問に思いません。
そんな疑問に思わないムクを小石のスベテは気付きました。
けれど、小石のスベテは何もムクには語りません。
いえ、語らないのです。
太陽の光のある【南】へ歩いていくと、ムクたちは波と風が止まった海辺へ着きました。
そうです。
ムクが初めておばぁさんに出会った海辺です。
ムクは小石のスベテを見つめていました。
どうするか小石のスベテに尋ねるのは簡単でしたが、ムクは1人で考えました。
すると、どうでしょう。
小石のスベテにも思い付かない答えが出てきたではありませんか。
◆第一話:終◆
第二話へ続く