ポジティブ・アクション5

ミッシェル  2009-07-30投稿
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そして日は暮れ、午後8時を廻った頃。

高級レストランの前で停車しているタクシーに、メアリーが勢い良く乗り込んだ。

「何時も悪いわね。運転手さん」

彼女はそう言って、ハンドルを握るスティーブに優しく微笑んだ。

だが、スティーブは昨日の彼女のあの悲しい表情を思い出すと、その笑顔が偽りのものと思えて仕方がなかった。

そして彼は早速、昨日の事について彼女に尋ねようとしたが、どうやらその必要は無さそうである。

「ねェ運転手さん‥行く前に、私の話を聞いてくれないかしら‥」

先ほどの笑顔とは一変して、やはりその顔は悲しみで溢れている。

「ははっ。何だい?」

スティーブはあえて明るく答えた。

「待って。その前に、私達まだお互いに名前を知らないわよね。私はメアリー・スミスよ。運転手さんは?」

ずっと前を向いていたスティーブは、ゆっくりと後ろへ振り返り、彼女と顔を合わせながら答える。

「スティーブン・ロジャース。スティーブと呼んでくれ」


二人が知り合ったのは今から一週間前。
その日の夜、スティーブはいつものようにひたすらタクシーを走らせていた。

「はいよ。着いたぜ」

「へへっ。どうもありがとさん」

その時、スティーブは酔っ払った客を自宅へと送り届けた所だった。

やがて彼は市街へ向かって車を走らせるが、その途中彼はある光景を目にした。

「何なの!? 離して!?」

「へへへっ。良いじゃねェか姉ちゃん。俺と一緒に行こうぜェ」

人気の少ない住宅街で、1人の女性が酔っ払った中年男に絡まれていたのだ。

「たくっ‥」

すかさずスティーブはその男に向かってクラクションを何度も鳴らす。

「何だ!? ぐぅ‥」

男は何事かと後ろへ振り向くが、強烈な車のライトが男の目を直撃する。

男はその眩しさのあまり、腕で目を覆った。

だがその女性、メアリーは男の背後にいた為、ライトは彼女には届いていない。
するとメアリーは、ライトで男が怯んでいる隙に、その男の急所を思いっきり蹴った。

「ギャァァァアッ!!!!」

男は悲痛な叫びをあげながらメアリーの腕を掴んでいた手を離し、その場にうずくまった。

「うふっ。ざまぁ見ろ!」



続く

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