メアリーはうずくまる男にそう吐き捨て、迷わず目の前のタクシーに乗り込んだ。
「ありがとう運転手さん」
「怪我はないかな?」
心配そうにスティーブは彼女に尋ねる。
「大丈夫よ。でも‥凄く怖かったわ‥」
それを聞き、スティーブはバックミラーから彼女の様子をうかがった。
メアリーは体を震わせ、とても不安げな表情を浮かべている。
「帰りはいつも1人なのか?」
スティーブが尋ねる。
「えぇ。そうよ」
まるで当たり前の事のように答えるメアリーに、スティーブはあきれかえりながら言った。
「たくっ。只でさえ治安が悪いって言うのに、あんたみたいな若い女が夜1人で歩いて見ろ。狙われるに決まってるだろっ。ここら辺なんて、頭のイカれた連中ばかりだ。気を付けないと、最悪の場合命を落とすぞ!」
スティーブのその言葉を聞き、メアリーは驚きのあまり口を開けながら呆然とスティーブを見つめる。
スティーブは続ける。
「まあとにかく、暗い夜道を1人で歩くのは絶対に止めろ。過去にそうやって殺された女を俺は沢山知っている。だから、俺はあんたみたいな女を見るとほっとけないんだよ。さあ、どこで働いてるんだ?仕事の帰りなんだろ?」
「そうよ。レストラン『VANESSA』でウェイトレスをやっているわ」
「VANESSAか。よし分かった。帰りは危険だ。仕事が終わったら、俺が自宅まで送ってやるよ。まあ、金は貰うがな。ははっ」
それを聞き、メアリーは少し顔をしかめた。
だが、車を持たないメアリーにとって、帰りの夜道はスティーブの言う通りとても危険だ。
何時命を奪われてもおかしくはない。
それだけこの街は治安が悪いのだ。
「うふっ、ありがとう運転手さん。じゃあ宜しくね」
メアリーはそう言って、スティーブに微笑んだ。
続く