蒸し暑い夏の夜。
自宅の電話が鳴った。
「もう勘弁して下さい」
押し殺すような男の声。
たまたま電話に出たのは私だった。
男は姉の会社の上司だと名乗った。
姉と男は一年前から 不倫の関係にあった。
男の妻が妊娠したことを、きっかけに男は一方的に姉に別れを告げた。
姉が異常なる行動に出たのは別れた直後数ケ月前からだという。
男の携帯に姉からの執拗な嫌がらせ電話が、一日に何百回とかかってくるらしい。
当然着信拒否にして無視してきたが、諦めない姉の執念に、精神的に参ってきたらしい。
警察沙汰にはしたくないと男。
出世や家庭を壊したくないと…
姉は会社では、普段通り仕事をこなしていたが、最近の姉の様子は危機迫るものを感じるらしい。
男は何度か姉を待ち伏せして話し合おうと試みたが、結局
水掛け論で終わったらしい。
私はショックのあまり、言葉がなかった。
だが疲労困憊した男の声に嘘偽りは感じられなかった。
こんな恐ろしいこと老いた両親には、とても話せない。
私は真相を確かめるべく姉に男からの電話内容を全て打ち明けた。
「そうよ」
姉は、あっさり認めた。
「あいつの方が失うものが大きいのよ。何もなかったことにはさせないわ」
開き直った態度というより憎悪を感じる。
自慢の姉だった。
美人で頭がよくて…
男性にもモテるのに。
誰もが羨むものを持っているのに
何故 こんな選択しかできないのか。
「男の狡さが許せないのよ」
姉の眼が、ぎらぎら艶を帯びていた。
「泥をかぶる時は道連れにしてやるわ」