狂気

 2009-07-31投稿
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蒸し暑い夏の夜。

自宅の電話が鳴った。
「もう勘弁して下さい」


押し殺すような男の声。

たまたま電話に出たのは私だった。


男は姉の会社の上司だと名乗った。


姉と男は一年前から 不倫の関係にあった。

男の妻が妊娠したことを、きっかけに男は一方的に姉に別れを告げた。


姉が異常なる行動に出たのは別れた直後数ケ月前からだという。


男の携帯に姉からの執拗な嫌がらせ電話が、一日に何百回とかかってくるらしい。


当然着信拒否にして無視してきたが、諦めない姉の執念に、精神的に参ってきたらしい。


警察沙汰にはしたくないと男。


出世や家庭を壊したくないと…


姉は会社では、普段通り仕事をこなしていたが、最近の姉の様子は危機迫るものを感じるらしい。


男は何度か姉を待ち伏せして話し合おうと試みたが、結局
水掛け論で終わったらしい。


私はショックのあまり、言葉がなかった。


だが疲労困憊した男の声に嘘偽りは感じられなかった。


こんな恐ろしいこと老いた両親には、とても話せない。


私は真相を確かめるべく姉に男からの電話内容を全て打ち明けた。

「そうよ」

姉は、あっさり認めた。


「あいつの方が失うものが大きいのよ。何もなかったことにはさせないわ」


開き直った態度というより憎悪を感じる。


自慢の姉だった。


美人で頭がよくて…
男性にもモテるのに。
誰もが羨むものを持っているのに
何故 こんな選択しかできないのか。


「男の狡さが許せないのよ」

姉の眼が、ぎらぎら艶を帯びていた。


「泥をかぶる時は道連れにしてやるわ」

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