それはジーナの友達なの、と聞こうとして、美香はやめた。ジーナはすでに鋭い目で美香を見ていたし、これ以上きつい言葉で攻撃されるのは耐えられなかったからだ。
何だか急激に疲れた。さっきまでの一連の出来事より、今聞いたばかりの舞子の話の方に、美香は精神的に参ってしまった。
お腹が痛い。魔女に蹴られた所もそうだが、何よりも鳩尾が痛くて吐き気がする。急に美香が腹を抱えてうずくまったので、ジーナも王子も相当驚いたようだった。
「美香ちゃん!?大丈夫っ?」
「あああすまない!私がさっき襟首をつかんで揺すったのが響いたのか!?」
「美香ちゃんに何してるんだよ!僕が寝てる間に!」
二人のやり取りが遠い。遠い。さらに遠ざかっていく。だが、意識を手放す瞬間、美香の口元に浮かんだのはうっすらとした笑みだった。――二人はやっぱりいい人だ。舞子の姉だとわかった途端に表情を険しくしたくせに、いざ美香の調子が悪くなると一緒になって心配してくれる。舞子のせいで不快な思いをしたはずなのに、そういった気持ちをみんなみんな押し殺して、私に優しくしてくれる……。ちっとも状況は改善されていないのに、美香は今までになく、安心して倒れることができた。
――温かい良い匂いが鼻をかすめた。
美香はゆっくりと、水面に浮かび上がるように自然に目が覚めた。頭の下に柔らかい何かがあてがわれている。丸められたカーキ色のマント。ジーナのマントだ。
「美香、目が覚めたか?」
仰向けに横たわったまま、声の方にゆっくりと顔を向けると、側でジーナが座っていた。ジーナの前には焚き火がパチパチと燃え上がり、組み立て式の鍋を吊るす道具に、鉄製の鍋がかけられ、中でコトコトとスープが煮えている。良い匂いの元はそこだった。ジーナは長袖の白いシャツ、灰色のぶかっとしたズボンにブーツという男のような出で立ちだったが、逞しい彼女にはよく似合っていた。
「ジーナ……さん。」
「よせ、ジーナでいい。――さっきはすまなかったな。」
バツが悪そうなジーナの顔を、美香は思わずまじまじと見てしまった。それから、ゆっくりと首を振った。
「ううん。こちらこそごめんなさい。うちの舞子が、あなたたちに迷惑をかけて……。」
「いや、謝るな。お前のせいじゃない。」
お前に当たった私が大人げなかったのだ、とジーナがぼんやりと呟いた。