大学生の弟が、珍しく家に女の子を連れてきた。
髪が長く細身で綺麗な女の子だった。
でかしたぞ、弟よ!
私は野次馬根性丸出しで弟の部屋にケーキを運んだ。
弟はベッドの上で、背中を丸めて座り込んでいた。
妙に怯えた目で周囲を窺っもていた。
女の子の方は部屋の中を、ぐるぐる回りながら天井や壁を見ていた。
突然女の子が「数体いる。でも害はない」と弟に言った。
「何とかしてよ」
情けない声出す弟。
「自業自得だ。死者が集う場所に行き、笑い者にするから罰を受ける。当然の報い」
女の子の独特な言動と意味不明な内容に私は唖然としていた。
女の子は私に近づき、こう言った。
「お姉さん足元には気をつけて。それから、おめでとう」
私の表情が凍りついた。
昨夜私は恋人からプロポーズされた。
だが家族の誰にもまだ報告はしていない。
「何のこと?」
笑顔は引き攣っていた。
女の子は、にっこり笑ったまま答えない。
ケーキをペロリと平らげると、用はないと言わんばかりに、さっさと帰っていった。
薄気味悪い子…
それから弟に、どういうことか問いただすと、渋々答えた。
弟は有名な心霊スポットに友達とドライブに行きその夜から 自分の部屋で幽霊を見るようになったと言った。
枕元に数人の男と女 の顔が同時に弟を覗き込んでいたらしい。
全員土気色をした能面のような表情だったと弟は泣きそうな顔で語った。
身体は硬直したまま 朝まで眠れなかったそうだ。
幽霊を見たのは一度だけらしいが…
一度見れば十分だろう。
私は幽霊よりも例の女の子の方がずっと気になっていた。
だが死者を笑い者にする者は報いを受ける。
その通りだと思う。
数日後
私は駅の階段を踏み外し滑って転んだ。
怪我はたいしたことなかったが足首を捻挫した。
足元に気をつけて…
女の子の微笑む顔が 脳裡をよぎった。