「母さん、まずいぞ。メグミが考え込んでる」
「ええ、これはお約束発動の合図です」
私の中で得体の知れない感情が湧き出てくる。
ジワジワこみ上げてきたものが、加速度を増して私から吹き出すような感覚に襲われる。
頭が痛い、体が熱い!
周りの環境も私の体調も最悪だ。
もうダメ、耐えられない。
この混沌とした状況に我慢できなくなった私は叫んだ。
「も〜っ、こんな生活――」
「母さん、避難だ」
「はい」
そして私は一気に言葉を吐き出す。
「イヤ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
叫んだ瞬間、『もー』で空気が震えだした。
その振動は徐々に大きくなり衝撃波となり、壁はひび割れ、柱はきしみだす。
「絶体絶命にピンチにメグミの特殊能力が目覚めてしまった!!」
「お父さん、やはり最後もお約束ですね」
「んなこといってる場合じゃない、母さん避難だ」
そして『イヤ〜〜〜〜っ!!!!』で一気に力が発動し、半径100メートルに存在するもの全てをなぎ倒した。
当然、我が家も吹き飛んだ。
「あ、やっちゃった……」
「お父さん。超能力者が危機に陥った場合、制御できない力を発揮するのもお約束ですね」
「『イヤボーンの法則』発動か。だからメグミにはベタに生きて欲しかったんだよぉ……」
父は手に持ってる電卓で被害の状況を計算していた。
そういえば前もこんなことあったっけ……
焼け野原のようになった周辺を見渡し反省していると、後ろから母が近づいてきた。
こんな状況にも微笑みながら私のカバンからトーストを取り出した。
「どこから出してるの!?」
「まぁまぁ」
取り出したトーストを手裏剣の要領で私に投げるつけると口へと吸い込まれた。
「まだ間に合うかもよ、転校生」
「ほはぁひゃん(お母さん)」
母は何も言わず、親指を上に立てて答えた。
私はなんだか胸が熱くなった。
家族っていいな、こんなことになっても私をベタに生活させてくれようとしている。
よし、それじゃあ私だって――
「ほへはぁいっへくる(それじゃあ行ってくる)」
まずは急ぐことにした。
早くしないと交差点に間に合わない。
あ〜、もう遅刻だよぉ。
確か秒速5,5メートルで走るんだよね?
転校生ってカッコイイかなぁ……
終わり