記憶喪失…。
1年前、達也は事故に遭い、頭を強く打ったみたいだ。
「記憶喪失だけど、家族の事は覚えているみたいなんだよね。」
「記憶喪失だから、別れたの?」
私は春香を睨んで叫んだ。
「家族の人に言われたのよ。仕方ないじゃない。」
少し涙目になっている春香をみて、私の胸がきつくしめられた感じがした。
「あかねには、早く伝えなきゃいけないと思ったわ…でも…。」
「でも…何?」
「申し訳ない気がして…。」
春香は言葉を詰まらせた…。
私に申し訳ないって…それは私からあの人をうばった事なのだろうか…。それとも…。
「達也は今何処に住んでるの?」
「今はこっちに戻ってきて、仕事復帰してるみたい…さすがにずっとやってきた会社は辞めてるけど…」
春香も私も、顔を見合わせる事はなかった…。
「もう帰るわ…そろそろ旦那も帰ってくる頃だし…。」
「あっ…うん…ありがとう今日…」
ニッコリ微笑んで、春香は私に名刺を渡してきた。
「あたしの番号。何かあったら電話して…。あまり役に立てないけど…。」
と言い、病室を出て行った。
記憶喪失か…。
春香は軽い症状みたいと言ってたけど、達也は、私の事も忘れてしまったんだろうか…。
達也に逢いたい………
忘れていた感情が一気に溢れ出した。
あの人に逢わない方がいいのだろうか……。
逢ってしまったら、混乱するのだろうか…。
逢いたい。
その事ばかりが、頭から離れない。
私はそのまま、眠りについた…。