奇跡 5

木村蜜実  2009-08-02投稿
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私は退院をして、今日から仕事復帰をする。
2週間ぶりに行く会社。
いつもの電車。
いつもの駅。
いつもの道。
仕事をする時の私に戻る。

達也への気持ちはまだ変わらないでいる。

あの人に逢いたい。


一日の仕事をこなしていれば、あの人の事は忘れられる…。

でも、同じ帰り道を通るとまた思い出す……。

人の心は不思議なもの……。

達也は今、どんな仕事をしているんだろう…。
達也は…私の事を…。

そんな事ばかり、この頃考えている。

街ゆく人の中を無意識のうちにさがす。

いるはずがないのに…。

ため息をついて、いつもの電車に乗る。

しばらくは、そんな毎日をすごしていた。


ある日、私の心を動かす出来事があった…。

「山口さん、親戚の方から電話だよ。」

「?」

私の親戚が職場の番号を知らないはずなのに…。

「はい…。」

疑問に思いながらも、電話に出る。

『山口あかねさんですか?』

女性の声で少し年配…かもしれない声…。

「はい、そうですが…。」

『私、井上達也の母ですが…今時間いいかしら…。』

「!」

達也の母親…なんで…?

「すみません…今はちょっと…6時に時間が空きますので、その後にでも…。」

私は携帯番号を教え合い、電話を切る。

胸がいつもより早い…。

達也ではなく、達也の母親に逢うなんて。

私はデスクの上に顔を伏せた。

頭の中はぐちゃぐちゃだった…。
仕事が手につかないくらいだった…。

不安が胸を押し潰す。

達也と別れた時と同じ気持ち。

何かあったのか…。

急ぎだったら、電話で用を言うだろうし…。

でも………。

達也の事で良くない事を話される気がした…。

悪い予感が私をおそう…。

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