私は退院をして、今日から仕事復帰をする。
2週間ぶりに行く会社。
いつもの電車。
いつもの駅。
いつもの道。
仕事をする時の私に戻る。
達也への気持ちはまだ変わらないでいる。
あの人に逢いたい。
一日の仕事をこなしていれば、あの人の事は忘れられる…。
でも、同じ帰り道を通るとまた思い出す……。
人の心は不思議なもの……。
達也は今、どんな仕事をしているんだろう…。
達也は…私の事を…。
そんな事ばかり、この頃考えている。
街ゆく人の中を無意識のうちにさがす。
いるはずがないのに…。
ため息をついて、いつもの電車に乗る。
しばらくは、そんな毎日をすごしていた。
ある日、私の心を動かす出来事があった…。
「山口さん、親戚の方から電話だよ。」
「?」
私の親戚が職場の番号を知らないはずなのに…。
「はい…。」
疑問に思いながらも、電話に出る。
『山口あかねさんですか?』
女性の声で少し年配…かもしれない声…。
「はい、そうですが…。」
『私、井上達也の母ですが…今時間いいかしら…。』
「!」
達也の母親…なんで…?
「すみません…今はちょっと…6時に時間が空きますので、その後にでも…。」
私は携帯番号を教え合い、電話を切る。
胸がいつもより早い…。
達也ではなく、達也の母親に逢うなんて。
私はデスクの上に顔を伏せた。
頭の中はぐちゃぐちゃだった…。
仕事が手につかないくらいだった…。
不安が胸を押し潰す。
達也と別れた時と同じ気持ち。
何かあったのか…。
急ぎだったら、電話で用を言うだろうし…。
でも………。
達也の事で良くない事を話される気がした…。
悪い予感が私をおそう…。