達也の実家。
大きな門構え。
広い庭。
お坊ちゃまとは聞いてたけど、こんなにとは………。
こんなに大きな家を見たら、不安だった気持ちが少し和らいだ。
お手伝いさんに言われるがまま、客室へ案内される。
「あかねさん。ありがとう。よく来てくれましたね。」
私の手を握りしめて、達也のお母さんは涙を流した。
私は、役に立つのだろうか…。
「早速で申し訳ないけど、達也に逢ってもらえます?」
「…はい。」
私はまた、お手伝いさんとお母さんに案内され、達也の部屋へ行く。
「達也、入るわよ。」
ノックを3回して、ドアを開ける。
薄暗い部屋の中、
達也は返事もせず、壁をずっと見ている。
「達也…あかねさんよ…。」
お母さんがそう言うと、達也はこっちを見た。
「あかね…?」
前の面影がなく、痩せていて、ヒゲも伸びていて、髪も伸びきっている、変わり果てた達也がいた…。
「た…達也…。」
私は前に進む事が出来なかった。涙が溢れ、立ちすくんだ。
達也は私を見て、目を丸くした。
(やっぱり、混乱しちゃうかもしれない…。)
そう感じた。
すっと立ち上がり、私の方へ歩いてくる。
私の前に立って、髪をなでる。
私の知っている達也がいる。
「あかね…。」
そう呟いて、私を抱きしめる。
細くなってしまったはずの腕なのに、強く、温かい…。
「覚えているの?私の事…。」
「…ん。覚えてる…。逢いたかった…。あかね…。」
覚えていた…。
私の事を覚えていた…。
それがわかった途端、声を出して大泣きした…。
「あかねにずっと謝りたかった…。あの時お前の事を捨ててしまって…。ずっと後悔してたんだ…。離れて気付いたんだ…。俺は…あかねが1番大事だって事が…。」
達也は私の頬に手を当てて…。
「あかね…愛してる…。」
これが、奇跡なのかもしれない…。
達也が言ってた…。
奇跡…。
その時、私の背中に熱い痛みが走った。
「ごめん…あかね…愛してるから、俺と一緒に死んでくれ…。」
口から血を吐いて、達也を見た。
「達也…イヤだよ…達也…。」
奇跡を感じた瞬間だったのに…。
達也…。
私は、愛する人に刺されて、意識が遠くなっていく…。
意識がなくなる時、達也が自分の首を刺していたのが見えた。
私は、達也と死んでしまうのか…。