「‥ふぅ、あんたがそんな辛い思いをしているとはな」
スティーブは懐から煙草を取り出し、火を付けた。
「もう耐えられない…でも‥行くしか、行くしかないの‥あの人の所へ‥」
涙でくしゃくしゃの顔を何度も手で拭いながら、彼女はひたすら泣いていた。
「何故」
「彼の下へ戻らないと、私は裏切り者と見なされて殺される‥」
「全く‥イカれた野郎だな」
スティーブは考え込むように、額に手を当てて俯いた。
「ごめん‥スティーブ‥車を出して‥帰るわ‥早く帰らないと」
するとスティーブは後部座席へと顔を向け、メアリーを見つめる。
そして、その震える手を優しく握りながら言った。
「メアリー、上手い事は言えないが、俺は何時だってお前の力になれる。俺の事をいくらでも頼っていいからな」
彼女はこの時、久しぶりに人の優しさに触れたと感じた。
そしてそれと同時に、胸に込み上げる熱い何かを感じていたのだった。
「ありがとう。凄く嬉しいわ」
すると、スティーブはダッシュボードの上に転がっているメモ帳とボールペンを取り、何やら書き始める。
そして、書いたページをちぎり、メアリーに手渡す。
「俺の住所と電話番号だ。俺に頼りたい時は何時でも来い。待ってるよ」
「ありがとう」
メアリーはその紙を綺麗に折り、ジーンズのポケットに仕舞った。
…その時
歩道からレストランの駐車場を見つめる怪しげな男がいた。
男は、車内のスティーブとメアリーの姿を見て驚愕する‥。
「あ、あれはボスの‥何てこった」
そう呟いた時、男の手は自然とズボンのポケットに伸びていた。
そしておもむろに携帯電話を取り出し‥
「ボ、ボス」
かけた先はボスのゲイリー。
ゲイリーはどうせ何時ものくだらない事だろうと思い、適当に答えた。
『はぁ、どうした』
男は駐車場の方を見つめながら
「ボスの女が、知らない男といます‥すぐそこで」
それを聞いたゲイリーは、知らぬ間に携帯を握る手を震わせていた。
「ホントか…?」
「あ、でもタクシーです」
「タクシーだと? ふっ、何時もの事だ。いや待てよ‥今頃は家に帰って来てる筈‥まさかその運転手と‥野郎…!!」
続く