晴牧は、
花鼓の顔と
地面に転がる棒を
幾度も見比べ、
悲痛な声を出した。
「お、俺が、俺がやったのか。」
花鼓の血で濡れる地に膝をつき
頭を抱えた。
腕の間からうめき声がもれた。
晴牧を見下ろす花鼓の目は
地面に打ち捨てられた金属の棒さながら
ただそこにあるだけだった。
壊れたところ、治さなくっちゃ。
花鼓は
ズキズキと痛む腕を見た。
裂けた皮膚と
潰れた肉の間から
数本の白い導線と
銀白色の骨格がのぞいている。
左手で拳を作ると
薬指と小指が
中途半端な角度で止まったまま
動かない。
導線、切れちゃったかな。
動かない指を
悲しむ気も惜しむ気も
おこらなかった。
ただ少しだけ残念だった。
お弁当を食べている最中に
割り箸が折れたとき、
残念に思うくらいに。
晴牧のうめき声に
涙と鼻水の音が混じった。
厚く大きな右手をきつく握りしめ
痛みに構わず何度も地面を叩き、
泣き叫んでいる。
あの人、あのままだと
壊れちゃうわ、かわいそう。
かわいそう?可哀想かしら?
可哀想よ。
花鼓は
意識の上に浮かぶ白い点を
少しだけ下方へずらした。
晴牧の泣き声が止んだ。