「ボス、俺はどうすれば」
男は早口で言った。
「何もしなくて良い。只、その男の顔を覚えておけ。それだけで良い」
「わ、分かった」
ゲイリーはソファーに座り、両手で頭を抱えて俯く。
「メアリー‥」
ゲイリーはそう呟き、テーブルに置いてある酒の入ったコップを取る。
そして一気に酒を飲み干し、そのままコップを握り潰した。
コップは無残に砕け散り、破片があちこちに飛散する‥。
「ありがとう。じゃあまた」
「奴から逃げたくなったら、俺に言うんだな。俺が守ってやる。そしてお前を自由にしてやるよ」
メアリーはそれを聞いて、嬉しさのあまり笑った。
「うふふ。ホント良い人ね。あなたって」
「どう致しまして。それじゃ、またな」
メアリーはもっと彼と居たかったが、ゲイリーの逆鱗に触れる前に、足早に邸宅へと向かっていった。
…だが邸宅では、怒りを露わにしたゲイリーが待ちかまえている。
メアリーはそうとも知らずに、中へと入っていった。
「ふっ、お帰りメアリー。相変わらず美人だねェ」
まだ邸宅に残っていたゲイリーの部下が、リビングへと向かうメアリーに言う。
それに対し、メアリーは無愛想に答えた。
「…ただいま」
暗い表情を浮かべながら、メアリーはリビングへと足を踏み入れる。
そして、ソファーには何時ものようにゲイリーが座っていた‥。
ゲイリーは顔を上げ、口を開く。
「遅かったな…」
するとメアリーは、思い付いた言葉をすかさず口にした。
「今日は残業だったの」
それを聞いて、ゲイリーは勢い良くソファーから立ち上がる。
「嘘はつかない方が良いぞ。さっき、部下から電話があった。お前が、男と一緒にいるとな‥何でも、その男はタクシードライバーだとか」
ゲイリーは鋭い目つきでメアリーを睨みながら、ゆっくりと歩を進める‥。
そんな彼に、メアリーは必死に訴えた。
「ご、誤解しないで! 只の運転手よ!」
沢山の言葉を必死にゲイリーに言い続けるが、今のゲイリーに何を言っても無駄である。
ゲイリーはひたすらメアリーに近寄っていった。
メアリーは恐怖で体を震わせながら、ゆっくりと後退りする。
「覚悟しろ‥」
続く