紀子の言葉に、嶋野は、そうであってほしいと思った。
「俺達や荒木さんや夕樹さんのことを…見守ってくれているのかな」
「え?」
「いや…今までの出会いは、見えない誰かの力…そうかもしれない…でも本当は、ただの偶然かもしれない。でも、由美が願った通り、俺は荒木さんに手紙を渡した…そこから先の出会いは、俺は予想してなかったからさ…」
「夕樹さんのことですか?」
「ああ。こんなことゆうと、夢物語とか、漫画じゃあるまいし、と笑われるけどさ…夕樹さんとの出会いは、亡くなった奥村さんが遺した手紙が、起こした奇跡だと思っているんだ…それを、奥村さんが見守ってくれているのかなと思ってね…」
「奥村さんが…そうかもしれないですね。私も彼の言う通りに、夕樹さんのもとへ、手紙を届けたんですもんね。…きっとそうですよ。
私も笑われるかもしれないけど、そう思っていたいです」
嶋野は、自分の意見に同意してくれた紀子に感謝した。
「ありがとう。森田さん。」
「いえ、私もそう思っていたいです。
きっと、天の上から、私達の行く道を、見守ってくれていると…だから、この不思議な出会いも……」
「不思議な出会いも?」
「きっと、奥村さんが、起こした奇跡なんじゃないかなっ」
利夫が起こした奇跡…確かにそうかもしれない。
…だとすると、利夫は、きっと由美のことも知っていたのだろう。
…でもどうやって
知ることが出来たのだろう…
そんな疑問もあるが、2人ともこれまでの出会いには、感謝していた。
「あの…嶋野さん。聞いておきたいんですけどね…」
「ん?」
「こうやって、出会いを経験して、何か素敵なものを得ました?」
「素敵なもの?」
「ええ」
「どうなんだろう…由美との約束を果たした。ひょっとしたら、それだけかもね。まだ、『秀さん』にも会えてないしね。それに…」
「それに?」
「まだ、誰も本当の意味での素敵なものは得てないかも…例えば、幸せとかね…」
嶋野は、その「幸せ」を、何気なく言ったつもりだったが、紀子はその言葉が聞きたかったのである。
「私もそう思ってます。まだこの出会いで、誰も幸せになってないです。きっと、この先は自分達で作ってほしいと思ってるかも…奥村さんは」
紀子の言葉の真意を嶋野はまだ読めなかった。