そして、例え僕の描いた絵が立派な賞をとっても、もちろんその絵を家族に見せることもなく、クラスのみんなの冷ややかな視線を逃れる為に、そそくさとランドセルの中に詰め込んでしまうのが常だった。
こういった過去のせいで、僕はこの特技をみんなには隠し通していたのだ。
だけどただ一人だけ、初めて僕の絵を褒めてくれた人がいる。
それが、僕の大好きな祖母だった。
*
ミンミンゼミの鳴き声で目を覚ますと、そこは久しぶりに見る祖母の離れの和室だった。
現在では当たり前のように、夏場はクーラーに頼ってしまう僕らとは違って、扇風機一台でこの暑さを凌げる祖母は、毎年ながらすごいと思う。
首ふりの扇風機の風量を強にして、僕はその前に座った。
網戸の側に吊り下げられた風鈴が、扇風機の風で揺れて涼しげな音色を奏でた。
「ん〜…あっつ〜い!」
隣で寝ていた姉が、タオルケットを蹴飛ばして目を覚ました。
「あれ?ここおばあちゃんち?お父さんとお母さんは?」
「もう起きて母屋でご飯食べてるんじゃない?多分昨日、僕らが寝てしまっていたからお父さんがここまで運んでくれたんだよ。」
朝に弱い姉は、ふうんと相槌を打ちながらも、眠そうに欠伸をしてまだ布団でうだうだしている。
「姉ちゃん、ラジオ体操行かないの?もう始まってるよ。」
枕もとの時計は、まもなく七時になろうとしていた。
夏休みの間だけ、祖母の家から徒歩五分ほどの公園で、近所の子供たちが集まってラジオ体操をしている。毎日行くとスタンプがもらえ、全てのスタンプを集めるとゲームやお菓子がもらえるのだ。
「あんた一人で行きなさいよ。中学生はそんなの行かないの。てゆうかお腹すいちゃった〜」
そう言うと急に姉は起き上がり、母屋へと階段を降りていった。
「ちょっと待ってよ姉ちゃん!」
いつも思うのだけど、姉は本当に自由気ままな猫にそっくりだ。