朝ご飯を食べ終わった頃にはもう9時近くになっていた。
「奈緒、今日何か用事ないの?」
母が奈緒に聞いた。
「ないよ」
奈緒は携帯をいじりながらそう答えた。
お兄ちゃんは何か用事あるのかな?
奈緒はそんな事ばかり考えていた。
「人尋は?」
奈緒が小さく反応した。
まるで早く兄の返事を聞きたいかのように。
「俺もなんもねぇよ」
母は、そう、と言って洗濯をするためにリビングを出て行った。
「お兄ちゃん、今日ほんとにどこにも行かないの?」
奈緒が確認するかのように聞いた。
「さっき言ったじゃん」
「そっかぁ〜」
奈緒はニコニコしながら言った。
そんな奈緒を不思議そうに見る人尋。
「お兄ちゃん」
「何だよ」
「ほんとに今日、どこにも行かない?」
兄は何度も質問してくる奈緒に冷たい目をした。
「んな訳ねぇじゃん」
人尋はさっきと逆の答えを返した。
奈緒は「え・・」と言って悲しげな顔をした。
「ほんとはどっか行くの?ほんとにほんと?」
必死になって聞いた。
「嘘だわ」
「え?」
「だから嘘だって」
奈緒は恥ずかしがりながら聞いた質問に兄が嘘をついた事に、腹立たしくなった。
「何で嘘つくの・・お兄ちゃんの馬鹿!」
いきなりの奈緒の態度に人尋は瞬きを繰り返し、
立ち上がった。
奈緒は自分の発言に兄が怒ったと思い、下を向いた。
自分の膝を見つめる。
ぶたれる・・かも。
そんな不安を抱いて、ずっと硬直していた。
手に汗をかいているのが分かる。
兄の手があがった。